<『花月記』番外篇>

言葉つれづれ(11)

西川 阿舟

◆形容詞の連用形「〜かり」「〜しかり」では切れない

 『俳句でたのしく文語文法』(山西雅子著、角川選書)が版を重ねていると聞く。著者は俳句の実作者であり、我々俳句を学ぶものにとっては非常に分かり易い文法書である。

 この本の形容詞の説明の項に、連用形「〜かり」「〜しかり」というかたちで言い切るのは適切ではないと書かれている。例えば

  風なくて落葉雨のみ激しかり

のような句である。

 短歌の世界でも同じように問題にしている人がいる。安田純生氏は『現代短歌のことば』(邑書林)のなかで、このように「〜かり」「〜しかり」を終止形のように用いるのは本来文語にはなかったかたちであるという。

  かにかくに渋民村は恋しかりおもひでの山おもひでの川

  小奴といひし女のやはらかき耳朶(みみたぼ)なども忘れがたかり

 教科書にも出ていて昔愛唱したこれら石川啄木の短歌も文語の文法に反し、一見文語のようだが文語にはない用法だという。

 ここに出した誤った用法の例としての俳句は私が過去に作ったものだが、今後私はこういう用法は用いないことにした。

 私はこの「言葉つれづれ」の第二回(03年冬号)に「野分まで弱々しけり野は不作」という句を例に挙げて、「弱々しけり」という活用はない、これは「弱々しかり」か「弱々しかりけり」が正しい、というようなことを書いた。しかし「弱々しかり」で切れるのは間違いだったのだ。不明を読者諸賢にお詫びしなければならない。

 形容詞カリ活用の連用形「〜かり」「〜しかり」は必ず助動詞に繋がって、「〜かりけり」とか「〜かりし」というかたちをとる。

憂かりける人を初瀬の山おろしよ

  はげしかれとは祈らぬものを    源  俊頼

 「小倉百人一首」にも出てくるこの歌はもちろん「〜かり」の本来の用法を示している。

 俳句での正しい用法の例を見てみよう。

夕影は流るゝ藻にも濃かりけり    高濱 虚子

鰤が人より美しかりき暮の町     加藤 楸邨

憂かりけり黄葉樹林に柚子一木    金子 兜太

さるすべり美しかりし与謝郡     森  澄雄

形容詞

基本型

未然

連用

終止

連体

已然

命令

ク活用

寒し


かり


かり


   


かる

けれ
   


かれ

シク活用

寂し

しく
しから

しく
しかり


   

しき
しかる

しけれ
   


しかれ

◆助動詞「べかり」「ざり」も同じ

 形容詞型の活用をする助動詞「べし」の連用形「べかり」や、打消の助動詞「ず」の連用形「ざり」も、下に助動詞が付く場合に使われるかたちであり、終止形的に言い切りにするのは間違いである。

  舞茸の天麩羅なれば飲むべかり

  朝虹や我が決心は変はらざり

私の句だが、これは悪い例である。

  白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり

                      若山 牧水

  日々待たれゐて癒えざりき半夏生     村越 化石

このように正しく使われなければならない。 

(『玉藻・四季物語』誌、2006年5月25日号所載)

【関連頁】

 言葉つれづれ(10)

 言葉つれづれ(9)

 言葉つれづれ(8)

 言葉つれづれ(7)

 言葉つれづれ(6)

 言葉つれづれ(5)

 言葉つれづれ(4)

 言葉つれづれ(3)

 言葉つれづれ(2)

 言葉つれづれ(1)

 踊る阿呆

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