
<『花月記』番外篇>
言葉つれづれ(14)
西川 阿舟
◆完了の助動詞「つ」
助動詞 未然 連用 終止 連体 已然 命令 接続 つ て て つ つる つれ てよ 活用語の連用形
助動詞「つ」の最も重要な用法は完了であり、動作や作用がすっかり終わってしまったことを表す。完了は動作や作用が完結した状態なので、過去・現在・未来のどの時点にもあり得る。完了=過去ではない。
火の奥に牡丹崩るるさまを見つ 加藤楸邨
大寺や霜除しつる芭蕉林 大野林火
かの母子の子は寝つらんか月見草 中村草田男
楸邨の句は〈牡丹の崩れるところを見た〉と言い切った終止形、林火の句は〈霜除をし終った芭蕉の林〉という連体形であり、草田男の句は〈寝てしまっただろうか〉という意味で終止形から推量の助動詞「らん」に連なっている。
◆「つ」と「ぬ」の違い 「ぬ」も完了の助動詞であるが、「つ」と「ぬ」の違いは、「つ」は意志的、作為的な動作を表す語に付き、「ぬ」は無意識的、無作為的な動作を表す語に付くという傾向がある。また「つ」は行為の完了に視点を置いて述べ、「ぬ」は状態の発生に視点を置いて述べるという傾向がある。先の楸邨の句と次の句を比較すればよく判る。
魚籠の中しづかになりぬ月見草 今井 聖
◆強意の「つ」 「つ」には他に強意の用法がある。
此(この)梅に牛も初音と啼(なき)きつべし 芭蕉
この芭蕉の句は終止形から推量の助動詞「べし」に連なり、きっと啼くだろう、と強意を示して推量している。
強意の「つ」を『小倉百人一首』から一首。
難波潟短き芦のふしの間も
逢はでこの世を過ぐしてよとや 伊勢伊勢の歌には命令形「てよ」が使われて、〈あなたに逢わないでこの世を過ごしてしまえというのでしょうか〉と男を責める気持が強く表れている。
◆動作の並列を表す「つ」 ラグビーの暮色はなほも凝りつ散りつ 中村草田男
「つ」にはこういう用法もある。この句の「つ」はどちらも終止形で、動作の並列を表し、口語の〈…たり…たり〉にあたる。この「つ」は現在でも〈持ちつ持たれつ〉〈抜きつ抜かれつ〉〈行きつ戻りつ〉などの慣用的表現として用いられる。
◆接続助詞「つつ」 同じような表現を接続助詞「つつ」を使ってすることもある。
接続助詞「つつ」は、一つの動作の反復・継続、あるいは、二つの動作・作用が同時に行われることを表す。
小夜時雨上野を虚子の来つゝあらん 正岡子規
夕凪を客にわびつつ簾捲く 五十嵐播水
ところがこの「つつ」を一字省略して「つ」一字で代用している句が時々見受けられる。
×夏帽子振りつ水郷めぐりかな
中七が八音になってしまうからといって、「つつ」を一字削って「つ」一字にしてしまうのは如何なものか。誤った用法だと言わざるを得ない。
「つつ」はまた、文末について余情、詠嘆を表す。
なつかしき京の底冷え覚えつゝ 高浜虚子
けふもまた花見るあはれ重ねつつ 山口青邨
(『玉藻・四季物語』誌、2007年2月25日発行所載)
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