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<『花月記』番外篇>

言葉つれづれ(16)

西川 阿舟

◆「紅葉(もみ)づ」再び

 秋の代表的な季語に「紅葉(もみぢ)」がある。「紅葉」の動詞形「紅葉(もみ)づ」についてはこの欄(04年の『秋物語』)に書いたが、先日ある人からどうもよく判らないと質問を受けた。

 また昨年秋のある句会でこんなことがあった。

  根こそぎに倒れしまゝにもみづれり

という句について星野椿先生が、この句を採りたいのだが「もみづれり」はおかしいのではないかと私に意見を求められた。私は「もみづれり」は確かにおかしい、「もみぢたり」か「もみぢせり」にした方がよいと答え、結局この句は

  根こそぎに倒れしまゝにもみぢせり

と添削されて特選となった。

 一部繰り返しになるかもしれないが、今回は再び動詞「紅葉(もみ)づ」について述べたい。

 辞書をひくと、「紅葉づ」は〈奈良時代にはモミツと清音で四段活用、平安時代に入って濁音化し上二段活用〉(『岩波古語辞典』)とあり、「雪降りて年の暮れぬる時にこそつひにもみぢぬ松も見えけれ」(古今)が濁音化した上二段活用の「もみづ」の用例として出ている。この歌の「もみぢぬ」は上二段活用動詞「もみづ」の未然形「もみぢ」+打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」であり、意味は「雪が降った年の暮についに紅葉しない松も見えるよ」というようなことであろう。

 ところで冒頭の例句の「もみづれり」は何故おかしいかといえば、上二段活用動詞「もみづ」が〈もみづ〉という形をとるのは終止形しかないが(*1)、終止形「もみづ」に「れり」という語は繋がるわけがない。どうやら終止形が「もみづる」となる四段活用動詞が存在するものと思い(*2)、その命令形に完了存続の助動詞「り」をつけて「もみづれり」としたものだと思われる。しかし「もみづる」という四段活用動詞は日本語にはないのである。

 上二段活用の「もみづ」には「り」は接続できない(*3)。「たり」をつけて、「もみぢたり」とするか、「もみぢす」というサ変動詞を使って、これに「り」をつけ「もみじせり」とするしかないというのが私の答えだったのだ。

 日本語にない四段動詞「もみづる」を使った例は『玉藻』誌上でも容易に見付けることが出来る。

 三色に染め分け大樹もみづれる………A

 縦横の畦もみづりし大田原 ……………B

 邂逅はもみづり初めし句碑ほとり………C

 里よりも比叡に紅葉づり早き櫨…………D

 Aは「もみづる」の命令形「もみづれ」に完了存続の助動詞「り」の連体形「る」が接続した形になっている。BとCは連用形「もみづり」から助動詞や他の動詞に接続している。Dは連用形「もみづり」を名詞化させて使っている。しかしいずれも日本語にない架空の四段動詞「もみづる」を変化させて使っているのだから誤用だというしかない。

 ところが上二段動詞「もみづ」も架空の四段動詞「もみづる」も連体形は「もみづる」である。次の句も『玉藻』誌からの引用だが、これらは全く問題ない、正用である。

 青空に紅葉づる寺のななかまど

 さきがけて紅葉づるは蔦峡深し

 これまで多くの先達が「もみづりぬ」とか「もみづれり」とやってきたし、季寄せの例句にも「もみづりぬ」や「もみづれり」が出てくる。しかし誤用の真似をしても所詮誤用にしかならない。上二段活用動詞「もみづ」か、サ変動詞「紅葉(もみぢ)す」を使うようにしよう。 

*1 「もみづ」の活用は、もみぢズ/もみぢタリ/もみづ/もみづるトキ/もみづれドモ/もみぢよ

*2 日本語にない四段動詞「もみづる」を活用させれば、もみづらズ/もみづりタリ/もみづる/もみづるトキ/もみづれドモ/もみづれ

*3 完了存続の助動詞「り」は特殊な接続をし、四段活用の命令形かサ変動詞の未然形にしか接続しない。

(『玉藻・四季物語』誌、2007年8月25日刊所載)

【関連頁】

 言葉つれづれ(15)

 言葉つれづれ(14)

 言葉つれづれ(13)

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 言葉つれづれ(4)

 言葉つれづれ(3)

 言葉つれづれ(2)

 言葉つれづれ(1)

 踊る阿呆

 

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