<『花月記』番外篇>
言葉つれづれ(17)
西川 阿舟
◆「水草生ふ」は上二段活用 二段活用動詞の連体形の活用語尾〈る〉の脱落は、句会や『玉藻』誌上でもしばしば見受けられる間違いである(このことについては連載第一回〔03年秋物語〕にも書いた)。
どこからも浅間見ゆ旅夏来たる
目に溢るもの春塵のせゐにする
「見ゆ」も「溢る」も下二段動詞であり、連体形は「見ゆる」、「溢るる」でなければならない。
ところが『玉藻』七月号の「薫風集」を読んでいて驚いた。〈る〉脱落のオンパレードである。
神の水透きて水草の生ふところ
水草の生ふ気配して沼静か
夕映えのみくさ生ふ湖汀女句碑
水草生ふ流れ貫く鉄砲町
水草生ふ中を小魚くぐり合ひ 等々
この回の兼題「水草生ふ」で詠んだ句であるが、全て上二段動詞「生ふ」の連体形「生ふる」の〈る〉が脱落している。
しかし何故こんなにもこの間違いが多いのか。「生ふ」は上二段動詞であるが、終止形が同じ〈おふ〉の「追ふ」や「負ふ」は四段活用動詞である。活用の違いは次表の通りであり、「追ふ」の連体形は「追ふ」である。 「生ふる」の〈る〉の脱落は四段活用に引きずられたことによるのではないだろうか。気をつけたいものだ。
未然 連用 終止 連体 已然 命令 上二 生ふ ひ ひ ふ ふる ふれ ひよ 四段 追ふ は ひ ふ ふ へ へ もちろん「生ふ」を正しく活用して用いている句も多かった。
神域の沼にも水草生ふる頃 小林 敏朗
たゆたうて水草生ふるところかな 大島 昭子
それぞれの形に水草生ひ揃ふ 三澤 鏡子
ここまで書いてきたところで、念のためと思い『ホトトギス新歳時記』〔三省堂〕の「水草生ふ」の項を見てまたまた驚いた。例句としてこんな句がある(この句は『現代俳句歳時記』〔ハルキ文庫〕にも採用されている)。
波たちて波たちて生ふ水草かな 池内たけし
これも誤用。〈る〉の脱落である。前にも書いたが歳時記や季寄せの例句にこうした誤用の句が掲載されているのは全く困ったことだと思う。われわれは例句を模範句として読むのだから。
最後に「水草生ふ」の名句を。
萍や生ひそめてより軒の雨 白雄
水草生ひぬ流れ去らしむること勿れ 村上 鬼城
水草生ふ水深きことかなしまず 山口 青邨
生ひ出でて大いなる葉の水草かな 山本 京童
ほの暗きこの世うかがひ水草生ふ 片山由美子
(『玉藻・四季物語』誌、2007年11月25日刊所載)
【編集者追記】
本誌別頁に掲載された阿舟の句。
富山吟行「おわら風の盆」祭にて
五歳からをどり始めて風の盆 阿舟
「鬼の高士の添削道場」から
桃食んで甘く豊かに一ト日終ふ 阿舟
桃が甘く豊かなんでしょうが、「甘く豊かに」を一ト日終ふ」の方にかけて、一日が甘く豊かに終わったと表現しているところが、この句のいいところです。
【関連頁】
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