<『花月記』番外篇>
言葉つれづれ(21)
西川 阿舟
◆「○を△み」は「○が△なので」という意味だ 秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ
天智天皇
風をいたみ岩うつ波のおのれのみくだけて物を思ふころかな
源重之
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
崇徳院
「小倉百人一首」にはこの三首に「○を△み」という言い方が使われている。この○は名詞で△は形容詞の語幹であり、「○が△なので」を意味する。つまり天智天皇の歌は「苫があらいので」、源重之は「風が強いので」、崇徳院は「瀬がはやいので」という意味になる。
俳句にもある
夜を寒み小冠者臥たり北枕 蕪村
昼を深み柴垣のへに猫柳照り 芥川龍之介
蕪村の句は「夜が寒いので」、芥川龍之介の句は「昼が深いので」ということだ。
『俳句』八月号に次の句を見付けて思わず笑ってしまった。
ひとごとをしげみこちたみ落し文 行方克巳
「人の噂がうるさく煩わしいので」という意味であるが、『万葉集』巻二に但馬皇女の歌
ひとごとをしげみこちたみ己が世にいまだ渡らぬ朝川渡る
があるのである。高市皇子の妻であった但馬皇女が穂積皇子に逢うために宮殿を抜け出して川を渡って行ったという、何とも大胆な不倫の歌である。万葉集にはほかにも「ひとごとをしげみこちたみ」というフレーズはあって、いわばこの時代の常套句でもあった。行方氏の句はこの常套句に「落し文」をくっつけただけの人を食ったような句である。しかし面白い。
ある句会で次の句を見付けた。
昼顔や汐入川の瀬を浅み
この句はどう解釈すればいいのだろうか。「汐入川の瀬が浅いので」昼顔はどうしたというのだろうか。いや昼顔と汐入川の取合せの句であって、「瀬を浅み」は「瀬が浅いので」という意味で使われているのではなく、単に「瀬が浅い」というつもりで使われているように思える。
昼顔や汐入川の瀬は浅く
くらいで良かったのではないか。
次に
春の音させて門川瀬を早む
という句があった。「春の音をさせて門川が瀬を早めている」と素直に解釈もできるが、この作者は冒頭の『百人一首』崇徳院の歌を勘違いして理解しているようにも思える。崇徳院の歌の「瀬をはやみ」の「はや」は形容詞「はやし」の語幹部分であって動詞「早む」の連用形ではない。だから「瀬を早む」という言い方にひっかかるのだ。
瀬を早み門川春の音させて
ならば素直にいただけるのだが。
(『玉藻・四季物語』誌、2008年11月25日刊所載)
【追 記】本誌別頁に掲載された阿舟の句
鬼の高士の添削道場
宴たけなわ厠にたてば寝待月 阿舟
臭い句ですが(笑)、これも「寝待月」が良かった。満月や明月じゃない方がいいでしょう。それから「厠」という古風な言葉を選択したのもいいですね。月見には古い言葉の方が合います。
第五十回雷会
球を打ち且つ句を詠む「雷会」の第五十回記念大会が、秋晴の十月三十日神奈川県藤沢市の芙蓉カントリー倶楽部で行われました。
秋風をフォローと信じピッチング 西川 阿舟
【関連頁】
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